メルヘン 、昔話を習うということ  その2


昔、昔のお話です。

いったいどこで起こったことなのでしょうか。
そう、でもこれは、どこだって起こったかもしれないことなのです。

先日、「ことばの家」で行われた言語造形家、諏訪耕志氏の
グリム童話「白雪姫」の公演 を聴きにいきました。

「白雪姫」の物語というと、ディズニーの映画を思い浮かべる方も多いと思います。
雪のように白くて美しいお姫様が、継母に毒のりんごをだまされて食べ、死んだようになりますが、素敵な王子様に助けられ幸せに暮らしたという夢のようなお話です。

でも実際のお話は、
そんなロマンチックな話とはほど遠く、嫉妬に狂った継母の物語なのです。

物語の怖いところは、継母が狩人に命じます。
「白雪姫を森に連れて行き、殺してその証拠に肝を持って帰ってくるように。」

でも狩人はいのししの肝を継母に差し出します。
継母は、それを白雪姫のものと思って塩焼きにして食べるのです。
また最後には、白雪姫と王子の結婚式に招待された継母は、
真っ赤に焼けた鉄の靴をはいて死ぬまで踊らされます。悪に科せられる罰もまた恐ろしい。

この話、私は本で読んでいて知っていたのですが、言葉で語られるお話は、
もっとその状況が目の前に浮かび、継母の心の中の動きもリアルに感じられました。
それが言葉の持つ力なのでしょうか。語り手の力も大きいと思いますが。
とにかく怖くて、2、3日、頭からこのお話が離れませんでした。

継母が嫉妬に狂う様が、ただのお話ではなく、人ごとではない怖さを感じました。
そう、どこだって起こりうるものだと。
もし、自分の大切にしているものを誰かが奪おうとしたなら。
恋人であったり、唯一自分がよりどころにしているものだったり…。
そんな事態になったなら誰だって、嫉妬心を抱かずにはおれません。

特に印象に残ったのは、最初の場面です。
お妃さまが縫い物をしているとき、血が三滴、雪の地面に落ちました。
そのとき、お妃さまは「雪のように白く、血のように赤く、黒檀のように黒い子どもが欲しい。」
と思われるのです。
この白と赤と黒のコントラストがなんとも不気味で、
そんな子どもが純粋でかわいらしい無垢のお姫様になるのだろうかとふと思ったのです。

ひょっとしたら、お妃さまは、自分がまもなく死ぬことを知っていて、自分の代わりに来るお妃を嫉妬で狂わすために白雪姫を産んだのではないかとも思えるのでした。これは考え過ぎかもしれませんが…。
 

グリム童話は、グリム兄弟がドイツをくまなく歩き、
素朴な民衆の語る昔話を聞き、書き写したものです。

シュタイナーは、メルヘンの中には、土地や民族、あるいは時代を超えて存在する、ある共通の真理が含まれている。メルヘンは人間存在そのものについて何か根源的なものを表していると言います。
神話やメルヘンは高次の真理がイメージによって表現されたものなのだと。

ドイツ語の「メルヘン」という言葉は、小さな海という意味も持つそうです。
この言葉の響きから、物語の一つ一つが、精神の大海原から取り出した一滴であり、また、
その一滴一滴が広大な海を内包しているのだと。

シュタイナーは教育においてメルヘンの重要性、メルヘンの持つ深い意味を理解し、
子どもの心を荒廃させないためにメルヘンを毎日聞かせてあげることが大切だと説きます。

けれども、メルヘンの中には子どもにふさわしくない話があるとか、
残酷な話というのは子どもに聞かせたくないという声もあります。
実は、グリム兄弟が昔話を書き写し、本になったときにもそういった声があったとのことです。

グリム童話の序文のなかに、こんな言葉がありました。

雨や露は地上に生きているすべてのものの上に恵みとして降り注ぎます。けれども自分の植物が雨や露に弱く傷つきやすいといって外に出さず、部屋の中で水をやる人でさえ、雨や露になくなれとは要求しないでしょう。自然にあるものはすべて成長を妨げられません。そして、私たちもそうであるように努めなければなりません。


嫉妬に狂った継母の姿が実は、ひょっとしたら私の中にも存在するのかもしれないと
「白雪姫」の物語は気づかせてくれます。
自分の中の心の闇を認識できたとき、人の心は浄化され、乗り越える力になるのです。

シュタイナーは、メルヘンに表現されているのは魂の奥深くに根ざしたものであり、
人間はそれを7歳までの子どもであれ、中年の人間であれ、あるいは老人になっていようと
同じように体験するのだといいます。

文章を読むだけではここまで感じることができなかったお話を、
語り手の言葉によって気づくことができたこと。
言語造形が芸術だといわれる理由がわかったように思います。 諏訪耕志さんに感謝です。


樋口早知子

by kusunokien | 2014-04-09 16:05 | くすのき園つうしんより

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